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広島高等裁判所 昭和25年(ネ)141号 判決

控訴人 被告 三野ウメヨ

訴訟代理人 星野民雄

被控訴人 原告 広島林産株式会社

訴訟代理人 末国雅人

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠として、被控訴代理人は甲第一乃至第四号証を提出し、原審証人酒井源之亟、三野基次、当審証人久保田護の各証言を援用し、控訴代理人は当審証人三野基次並に原審及び当審における控訴本人の各供述を援用し、甲第一号証中控訴人名下の印影の成立を認めるが、その余の部分は不知、その余の甲号各証の成立並に甲第一乃至第三号証の原本の存在はこれを認めると述べた。

理由

原判決添付の別紙目録記載の不動産が控訴人の所有であることは当事者間に争がない。そして、原審及び当審の証人三野基次の証言と抵当権設定契約に関する部分を除くその余の部分につき同証言により真正に成立したと認める甲第一号証並に原審証人酒井源之丞、山本久雄の各証言を綜合すると、被控訴会社は訴外三野基次に対し薪炭売掛代金六十八万七千七百四十八円の債権をもつていたが、昭和二十五年一月十二日右訴外人と右債権を目的として、弁済期は同年三月三十一日、利息及び期限後の遅延損害金はいずれも百円につき一日三銭の定で準消費貸借契約を締結し、訴外黒川一郎、小野竹三郎が右債務の保証をしたこと、その際三野基次が控訴人の代理人と称して右債務の担保として控訴人所有の前記不動産につき抵当権設定契約をしたことを認めることができる。

そこで三野基次が右抵当権設定契約につき控訴人を代理する権限があつたかどうかにつき判断するに、被控訴人の提出援用する全証拠資料を以ても右代理権を認め難く、却て前掲証人三野基次、原審及び当審における控訴本人の各供述によれば、三野基次は控訴人に無断で前記抵当権設定契約を締結したものであることが認められる。

更に進んで被控訴人の表見代理の主張につき判断するに、先ず三野基次において本件抵当権設定契約締結の当時何等かの法律行為につき控訴人の代理権をもつていたかどうかを考えてみなければならない。この点について、被控訴人は三野基次は控訴人の夫であつて家政全般を掌握しておることと同人が控訴人の実印を持参したこととを主張する。なるほど三野基次が控訴人の夫であることは当事者間に争のないところであるが、前掲証人三野基次及び控訴本人の各供述によれば同人等夫婦の間においては妻である控訴人が日常家事にたずさわつていたことが認められるのであつて、たとい夫たる三野基次が日常家事をとつていたとしても、その一事を以て同人が控訴人の法律行為につき代理権をもつていたことの証左とすることはできない。原判決は民法第七百六十一条により夫婦は日常家事につきお互に相手方の法定代理権を付与せられたものという見解を示しておるけれども、同条は夫婦の一方が日常家事について第三者との間にした法律行為によつて生じた債務につき相手方の連帯責任を定めたにとどまり、これを以て夫婦がお互に相手方の法定代理人たる地位をもつことを定めたものと解することはできない。又三野基次が前記抵当権設定契約締結の際控訴人の実印を持つていたことは前掲証人三野基次の証言によつて認められるが、同証言と前掲控訴本人の供述とによれば、右は三野基次が控訴人自ら保管している実印を勝手に持ち出したものであることが認められるから、三野基次が控訴人の実印を持つていた事実を以て同人が控訴人の代理人であつたことの証拠とするに足らない。そのほか三野基次が本件抵当権設定契約締結の当時控訴人から特定の法律行為につき代理権を授与されたことについては被控訴人の主張しないところであるから、三野基次に控訴人の何等かの法律行為につき代理権があることを前提とする被控訴人の表見代理の主張は、その余の点につき判断を加へるまでもなく失当であること明らかである。

そうすると、控訴人に対し本件不動産につき抵当権設定登記手続を求める被控訴人の請求はこれを棄却すべきであるのに、これを認容した原判決は失当であるからこれを取消すべく、民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 小山慶作 判事 土田吾郎 判事 宮田信夫)

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